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神戸製鋼の石炭火力発電所・行政訴訟が結審、3月15日に判決
喜多幡佳秀(ATTAC関西グループ)
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神戸製鋼が神戸市灘区で建設中の石炭火力発電所をめぐる行政訴訟が1月20日の第11回公判で結審となり、3月15日に判決が言い渡される。
建設に反対する地元住民たちを中心とする「神戸の石炭火力発電を考える会」は2018年11月から、神戸製鋼と関西電力に対して建設差し止めを求める民事訴訟(神戸地裁)と、建設にあたっての環境アセスメントにおいて大気汚染および気候変動による生命・健康への影響の調査、予測、評価が適正になされていないにもかかわらず、これに変更を命ぜず、工事を認めた国の判断が誤りであるという主張に基づき、国に対して建設許可の取り消しを求める行政訴訟(大阪地裁)に取り組んできた。
この2つの訴訟は、地球温暖化をめぐる国際的な動きの大きな焦点となっている石炭火力発電をめぐる日本での初めての裁判であり、地元住民と原告団にとっては長年の大気汚染・環境汚染をめぐる運動をベースに、未来を担う新しい世代とつながった画期的な闘いだった。
筆者もできる限り傍聴に参加し、ATTAC関西グループでも気候危機と火力発電所建設の問題をテーマとした学習会を神戸で3度開催し、地元住民と交流してきた。気候ネットワークの浅岡さんをはじめとする気鋭の弁護士たちが毎回展開する迫力満点の議論と、公判後の報告会を兼ねた勉強会は、専門的な議論が多く、しかも原告団や住民の方からも非常に高度な内容の質問や提起が出されて、消化不良ながら大いに勉強になった。
公判での論点については「神戸の石炭火力発電を考える会」や気候ネットワークのホームページ等で見ていただく方が早いので、省略させていただく。
1月20日の行政訴訟第11回公判では、原告の1人で発電所の近くに住むKさんの意見陳述と、原告側の最終弁論が行われ、被告側は弁論を行わず、結審となった。
Kさんは、現在稼働中の発電所による大気汚染で長年苦しめられてきたことを訴え、その上に新たに2基が建設されることへの戸惑い、子どもたちやこれからの世代のための責任、そして地球環境への関心を裁判官に語りかけるように陳述した。歴史的な判決を期待する原告団や傍聴者の想いに裁判官はどう応えるのだろうか?
池田弁護士による最終弁論は2年余にわたる公判の中で原告側が主張してきたこと、争点となること、世界的な気候危機への関心の高まりの中でのこの裁判の意義について簡潔に再整理した。火力発電所建設にあたっての環境影響調査が全く不十分で、@石炭火力を前提としていて、他の燃料(天然ガス等)との比較を行っていないこと、A健康に最も影響が大きいPM2・5について調査や評価を行っていないという問題があるにもかかわらず、国が神戸製鋼側による評価書をそのまま認めた確定通知を発行したのは違法であり、さらに、パリ協定に基づく温室効果ガス排出の削減や石炭火力発電の停止という国際的な流れと日本政府の目標にも逆行するものであることを改めて主張して、司法の積極的な姿勢を求めた。
公判後の報告会では、弁護団から、11回に及ぶ公判(うち1回は進行協議で非公開)を振り返って、始めはそもそもこれが裁判になるのかという躊躇もあったが、弁護団、各分野の専門家、原告団が学習や議論を重ねながら、膨大な書面を準備し(提出した書面は5千ページを優に超えているとのこと)、原告とともに情報公開請求で入手した資料を読み込み、特に福島原発事故以降の火力発電所の増設の動きとそれを主導した経産相の関与の実態が明らかになったこと、いろいろと大変だったが、やってきてよかったという実感が語られた。判決の内容は予断を許さないが、運動は判決で終わるのではなく、公判で明らかにしてきたことをさらに広く訴え、さまざまな効果的な方法を使って社会を変えていくことが大事だということが参加者全体で共有された。
菅政権の下でパリ協定に沿った排出削減の努力が打ち出されたが、石炭火力発電所新設の中止と既設発電所の廃止はその試金石となる。神戸の裁判はそれに続く横須賀等での裁判にも大きな影響を及ぼすと考えられる。注目を!
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